方向音痴な僕は、よく道を間違える。効率よく成果を上げる使命をもったサラリーマンとしては致命的だ。右と左、その2択を間違えるくせに、なぜかいつも自信があるのは自分でも不思議でならない。でも、そんな時にこそ、思いがけない出会いが生まれたりもする。

ある日、住宅街を彷徨っていた時に気になる店を発見した。その日はちょうど閉店時間で入ることができず、改めて伺うもいつも営業していない。休日にも行ってみたが、やはり閉まっている。かれこれ4回目だ。あれは幻だったのか?と、徐々に薄れていく記憶の中を彷徨っていた。そうして5回目、ついにその扉を開くことができた。安心して席につき、メニューを探していると「今はコーヒーしかやってないよ」とのこと。動揺をマスクで隠しながら、アイスコーヒーを注文した。話を聞くと、午後3時からの2時間しか営業していないとのこと。しぶとく通ってよかったと心底思った。

カウンターで煙草をふかす常連さんと一緒に、ワイドショーを眺める。マスターと楽しげに談笑している声が聞こえる。今年の11月で開店から45年。2人は40年以上の付き合いらしい。毎日のようにここでコーヒーを飲みながら、他愛もない会話をする。常連というよりも気心知れた友人というべきか。そこに流れる空気感と、ヤニで染まった店内を見ていると、学生時代にたむろしていた友人の家を思い出した。

お金がない代わりに、思いきり贅沢に時間を浪費していた15年前。話していたことはなにひとつ覚えていないが、頭のどこかに沈殿したなにかが、今の自分を形作っているのは確かだ。無駄に思える時間にこそ、価値があるはず。喫茶店に惹かれる理由は、そんなところにもあるのかもしれない。(文/武山 勝哉)
コーヒーハウス フォーエバー
住所/旭川市曙1条6丁目1-17
TEL/0166-25-3079
営/15:00-17:00
休/日曜、祝日