昭和喫茶探訪
紅茶の香り、たゆたう
黄昏どきのティータイム
紅茶の店 ライフラプサン
仕事が立て込んでくると、焦って失敗をしたり、よくない方向に進んでしまうことがある。平静を装いつつも、頭の中はいっぱいになり、どうしようもなく不安な気持ちになることもある。そんな時は、寄り道をすることにしている。いつもと違った動きを加えて、ゆらゆらと揺らぐ心を無理矢理に矯正するのだ。
始まってしまえば、いつかは終わる。先のことを考えていても仕方ないが、年末までの予定が見えて少し落ち着きがなくなってきた。いつものコーヒーではなく、今日は紅茶の専門店で、優雅にしっとりと時間を過ごそう。ケーキにサンドイッチ、メニューを見ているとどうにも目移りが止まらない。ならばと、スコーンとクッキーも付いたアフタヌーンティセットに決めた。午後からだけ味わえる贅沢。変化をつけるなら、ときに大胆な決断も必要だろうと言い訳をしながら。どこを切り取っても画になる店内は、ぼーっと見ていても飽きることがない。携帯を触ることもなく待っていると、風格のある佇まいの夢のようなセットが運ばれてきた。思わずこぼれそうになった声を押し殺し、代わりに口元がゆるむ。なにから食べようかと考えを巡らせながら、紅茶を一口飲んだ。そのあとは、つとめて平静を装いつつも、我を忘れて夢の中へ。あんなに飽きずに眺めていた店内の景色はどこへやら。華やかな香りとタルトの口当たり、甘酸っぱい苺の余韻が残った。
温まった身体も冷えた夕方、今年初の雪虫を見た。街路樹も徐々に色づきはじめ、刻一刻と冬が近づく。今度行こうと思っていた喫茶店は、ある日突然なくなっていた。始まりがあれば終わりがある。その当たり前の事実を、まざまざと思い知らされた。今日もまた、寄り道先を探している。(文/武山 勝哉)
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住所:旭川市東光1条3丁目1-5TEL:0166-31-9725/定休日:水曜
その他不定休あり/駐車場:あり。14台 無料
東光/カフェ・喫茶
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