現在の姿が4代目となる旭川駅は、最後のリニューアルから10年以上が経過した。まだ綺麗な駅舎の中では、学生や小さな子供を連れた家族が団欒している姿を見かける。時刻は昼時を少し過ぎた頃。昭和の香りとメシの匂いにのって、向かいのビルに渡り、地下への階段を下りた。

スナックや居酒屋など、個性溢れるお店が並ぶフロアに、昼から酒盛りをする賑やかな声が聞こえる。ここも少しずつ活気を取り戻してきたようだ。確か、飲み過ぎで椅子から転げ落ちた人を見たこともあったな。あれはまだ入社したての頃だったか。昼下がりのいい光景。そんな愛すべき呑兵衛が歌うカラオケの演歌を聞きながら店に入ると、古いスピーカーからかすれた声が響いた。ビートルズだ。もちろん世代ではないが、どの曲も物心ついた時から馴染みがあるものばかり。テーブルの下、指先でリズムをとりながらメニューを眺める。ブリティッシュな気分は一旦置いておいて、しょうが焼き定食(800円)をオーダーした。

まずは味噌汁を一口。大根と揚げには味が染みており、なにより熱々なのが素晴らしい。肉にいきたい気持ちをぐっとこらえ、まずは野菜から。31歳のちょっとした健康意識が邪魔をする。そして肉。ジューシーでしっとりとやわらかく、これは否が応でも白米が進む味。ヘイママ、これは週に8日でも食べたくなるね、と心の中で伝えた。ブリティッシュな気分を上回る、シャイな道産子根性が邪魔をしたようだ。

会計の時、カウンターに並ぶ椅子に目が留まった。約40年前のオープン当初から、ずっと変えずに使っているそう。新しいものの良さもあるが、歴史が染みついたお金じゃ買えない価値にはかなわない。残るべきものはきっと、世代を超えて誰かの心に響いていくんだろう。(文/武山 勝哉)
軽食喫茶 一の樹
旭川市宮下通7丁目 駅前ビル 地下1階
TEL/090-8909-6129
営/10:30-20:00
休/木曜