身近にある施設や商品、催し物など様々な仕事の舞台裏に、ライナー編集部が密着しました
気になるあの場所へ潜入!

菊の湯
旭川市神楽5条14丁目2-17 レジデンス菊1F
Tel 090-8537-1137
昨年9月の再オープン以降、昔からの常連だけでなく若い世代も取り込みながら、旭川における銭湯カルチャーの発信地になるべく邁進中。オーナーの塩路道徳さんが所属するフロクラブのスローガン「銭湯を日常へ」を体現すべく、大人でも500円で入れる昔ながらの価格を守っている。風呂だけでなく、ハルビア社製のストーブを備えたサウナは、サウナ好きからの人気も高い。
湯に浸かる至福の時間 極楽までの舞台裏へ

神楽の住宅街、マンションの1階にあるこちらの銭湯。コロナ禍に一時閉業するも、旭川でサウナ事業を展開するアサヒサウナと、京都から銭湯カルチャーを発信するフロクラブが手を組み、修繕費用を募るクラウドファンディングを経て昨年9月に再オープンを果たす。市内でも閉業が相次ぐ銭湯業界で、若者の感性を取り入れた新たなスタート。菊の湯を通して「銭湯」のウラ側へ、いざ密着。
銭湯の最重要ミッション 清掃はお客さん目線で
午後2時からのオープンに向けて、スタッフの1日は午前9時から始まる。出勤するとまずはじめに、短パンに着替えてからお風呂場の清掃がスタートした。

桶とイスをひとつずつ洗い、お湯を溜めた浴槽で泡を流していく。それが終わると、次は洗い場や壁、床や浴槽の清掃へ。シャワーなどの手が触れる部分はもちろん、一見気が付かないような細かいところまで見逃さない。女湯から始まり、男湯、脱衣所やロビーなど、オープンまでの5時間をほとんど清掃に費やすという。同業者にも驚かれるという入念な清掃において、一番大切なことはペース配分とのこと。「広い館内を1人でやらなければならないので、なかなか大変です。でも、掃除でひと汗かいて仕事終わりに入るお風呂は最高!そのために頑張っているところもあるかも」とスタッフの中村花観さん。お客さんのことを第一に考えながら、自分たちも風呂を楽しみ、常にお客さん目線を忘れない姿勢によって、快適な入浴環境が作られていた。
最高の湯加減も人の手で 一番風呂までのウラ側
10時頃から湯沸かしの準備が始まる。関係者以外立ち入り禁止の暖簾をくぐりボイラー室へ。

湯沸かしを担うのは店長の川口遥斗さん。風呂好きが高じて異業種から菊の湯へ。再オープンからの立ち上げメンバーの1人だ。慣れた手つきでボイラーを稼働させ、時間をかけて温めていく。その間、お湯をきれいにする珪藻土ろ過機の清掃を行う。風呂場のお湯も水風呂の水も、このろ過機を通ることで常に衛生的に保たれるため、銭湯の中でも極めて大事な仕事のひとつ。シャワーのお湯も、熱湯と水を混ぜていい塩梅に調整している。常に快適な温度を保てるよう、営業中も調整を欠かさない。
前職では牛乳の製造工場で働いていたという川口さん。「ボイラーや配管などの知識は、前職の経験が活きていますね。牛乳がお湯に変わった感じです」と笑う。

正午をまわった頃、適温となったお湯がついに浴槽へ。ここから約2時間、浴槽とろ過機を循環させて、極限までお湯を磨いていく。こうして、清潔で安心なお風呂が保たれているのだ。
「気持ちよかった」のためにこぼれるほどの銭湯愛を
再建までの道のりは、決して平坦なものではなかった。修繕費用は集まったものの、追加の修理や工事に焦る日々。遅れながらもやっとの思いで決まったオープン日の3日前に、保健所からのストップがかかり、慌てて追加工事をしたこともあったという。
生粋の銭湯好きであるオーナー塩路さんの元に集まるスタッフもまた、銭湯愛に溢れた人ばかり。数々の困難を乗り越えてきた原動力は、仲間たちの熱量とお客さんの声だったという。川口さんは「大変なことも多いですが、お客さんの感想が本当にやりがい。地元を盛り上げたいという気持ちが強いので、ここを起点に楽しいまちにしていきたい」と力を込める。
さらに深部へ ルポ・あれこれ
安全第一。見守る神棚

ボイラー室の頭上には神棚が設置され、みなの安全を守っていた。スタッフのちょっとした休憩スペースにもなっているので、ここに来るたび身が引き締まりそう。取材中、心の中で静かに手を合わせた。
長~い鉄の棒、それは栓抜き

浴槽掃除の最中、1メートル以上はありそうな鉄の棒を持ち出す姿が。銭湯の浴槽は水圧が高く手で栓を抜くことができないため、専用の道具が必要なのだ。
銭湯文化を継承する次の世代

元介護職や美容部員など、色々な経歴をもつスタッフからは、共通して銭湯への愛と尊敬が感じられた。券売機ではなく番台でのコミュニケーションなど、古きよき文化は次の世代にもじわじわ浸透している。
編集後記
オーナーの塩路さんを除くと、下は10代から上は31歳の若く勢いのある9人で運営している。取材中も感じるほどのチームワークのよさとみずみずしい活気に、なんだか少し若返ったような気さえしてきた。気持ちのよい風呂を提供するのは大前提として、明るく元気な接客に力を入れているという。地域のコミュニティとしての機能を、自分たちから作っていこうという気概が垣間見えた。銭湯も、まちの未来も明るいぞ。











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