昭和喫茶探訪⑯
煙草とコーヒー、漫画と小鉢
ここは大人の秘密基地
喫茶&お食事セカンド
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どこまでも纏わりついてくるような、湿り気を帯びた空気に嫌気がさしていた。暑さのせいか、頭の中がぼんやりとしているある日の午後。どこか遠くへ行って、空っ風でも浴びていたい。そんなナイーブな気分でも、腹が減るのは健康な証拠だろう。
小さいころから嫌いなものがないのが自慢だが、代わりにこれといって好きなものもないのが地味にコンプレックスだったりする。ふわふわと中途半端な性分は、こんなところにも現れている気がする。そんな自分でも、定期的に食べたくなるもののひとつがカツ丼だ。喫茶店というよりも、食堂テイストな匂いがする店内。魚だけでも7種類以上ある定食を含め、ざっと50種類ぐらいはありそうなメニューの中から迷わず注文した。
漫画を片手に煙草をふかしながら、サラリーマンが束の間の休息をとる。40年前の空気をまるごと切り取ってそこにあるような光景が広がる。昭和の名作から現代の流行までをカバーする大量の漫画が、四方を埋め尽くしている。その数に圧倒されていると、カツ丼(800円)が運ばれてきた。お盆に乗った丼の周りを、小鉢が埋め尽くしている。まるで定食だ。お腹いっぱい食べてほしいというママの心意気を受け取った。まずはみそ汁を一口。そして一番左のカツを一口。しっかりと濃いめの味付け、卵のとじ具合、手に持った時のほどよい重み、そのすべてが好みのど真ん中を突いてきた。手作りのおかずも、小鉢では足りないぐらいだ。暑さも忘れて夢中で食べる。最後の一口を、右から二番目のカツで締めた。
漫画の世界に飛び込み、現実を忘れる時間もたまにはいい。ここで受け取った心意気を、自分の仕事に還元すればいい。少し晴れた気分で、次の仕事に向かった。(文/武山 勝哉)
関連スポット
食事と漫画・麻雀が楽しめるお店
住所:旭川市永山1条2丁目 秋月ビル2F TEL:0166-48-8395/定休日:日曜・祝日/駐車場:有
永山/カフェ・喫茶
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