1. ライナーウェブ
  2. ニュース&記事
  3. おでかけ
  4. 銀河鉄道の父

父、その愛

銀河鉄道の父

ⓒ2022「銀河鉄道の父」製作委員会

誰もがその作品を一つぐらいは知っている宮沢賢治。本作はその賢治を父親の視点で描くという試みがされているが、実はかなりの部分がフィクションであり、史実とは異なっている部分も多い。あくまで父と子を中心に家族を描いた映画として見たほうが良い。

今でこそ宮沢賢治と言えば誰もがその作品に触れるような国民的作家であるが、彼の作品がこれほど読まれるようになったのは彼の死後のことである。おそらく賢治本人はここに描かれているように、自らの作品がその後百年近くの長きに渡って読み継がれていくとは思いもしなかっただろう。

この作品では、賢治の父は明治の終わりから昭和初期という激動の中で、当時の父親的な部分を大きく持ちながらも、変わろうとし、新しくあろうとした人として描かれている。実際、宮沢賢治の人生に大きく影響を与えたのはこの父親と妹のトシであることが知られているが、本作はそれをさらに脚色し、特に家族の心のやり取りにフォーカスしている。それ故感動的なシーンが多く涙も誘われるが、史実とは異なっている点が多いので間違った認識が広まる懸念はありそうだ。この映画を機に宮沢賢治に興味を持つ人が増えたら嬉しい。(映画ライター・ケン坊)

ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム

この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。

もっと読む

前評判通り、「感動的」で「泣ける」映画であった。が、同時に、これは史実からは思った以上に遠く、多くの部分で大胆に脚色されている。「感動的」で「泣ける」ものとしてかなりチューニングされているのである。映画としてよくできていて泣ける作品になっているだけに、間違った認識が広まってしまう、これを史実と誤認する人が増える懸念はあると感じた。

この作品には、この手の作品によくある「これは史実をもとにした物語です」とか「この作品はフィクションであり、~」といった文言は特になかった。しかし宮沢賢治は実在の人物であり、実際の彼の作品が作中にいくつも登場するし、周囲の人物(賢治の家族)も実名で登場するのでフィクションとは認識しにくい。私は個人的に宮沢賢治が好きなのでこれまでに作品はもちろん、周辺の研究書籍などもいくらか読んできており、この作品に描かれている話は正直なところ「けっこう違うな」という印象だった。もちろんフィクションであるからそれで良いのだが、「これはフィクションですよ」と明確にしておかないと間違った情報を流布することになりかねないのではないかという気がした。映画として良いだけにこの点が少々気にかかる。

作中で最も印象に残ったのは賢治の臨終のシーンである。ここで父、政次郎が賢治の「雨ニモマケズ」を暗唱する。「雨ニモマケズ」は暗唱の課題としてもよく取り上げられるため、諳んじているという方も少なくないだろう。それを政次郎役の役所広司が、今まさにわが子を看取らんとする心持でほとんど絶唱する。このシーンは圧巻であり多くの人がここで涙するだろう。私も涙を誘われた。が、これは史実と大きく異なっており、「雨ニモマケズ」は賢治の生前には誰も読んだことがなかったとされている。手帳に書かれていたのは事実なのだが、この詩を政次郎が賢治の生前に読んだことはおそらくない。明らかにこの感動的なシーンのための創作になっているのだが、このような良く知られている事実を曲げたシーンの存在が、見方によるとこの映画の価値を損なっているような気もする。役所広司の朗読はさすがであり映画にとって重要なシーンであるだけに、それが史実を大きく曲げたものであるというのは些か感動に水を差しているような気もする。

このように、全体的にこの作品はとても良い映画だと思うのだけれど、如何せん史実からの脚色が少々行き過ぎているため手放しに喜べないところがある。ラストシーンは幻想的で素敵だが、それまでの流れゆえに、ちょっと安っぽく着地してしまったなという感じも否めない。

ただ、本誌にも書いたように、この作品を見たことがきっかけとなり、宮沢賢治に興味を持つ人が増え、彼の作品が広くまた新しい世代に届いたとしたらやはりこの作品には大きな意義があると言える。

関連スポット

シネプレックス旭川

シネプレックス旭川

住所:旭川市永山12条3丁目ウエスタンパワーズ内

TEL:0570-783-882

永山/アミューズメント

イオンシネマ旭川駅前

道北最大級の8スクリーン1,200席

イオンシネマ旭川駅前

住所:旭川市宮下通7丁目2番5号 イオンモール旭川駅前4F

TEL:0166-74-6411/駐車場:900台

宮下通/アミューズメント

  • 駐車場

関連キーワード

シネマの時間 バックナンバー

パスト ライブス/再会
仲が良かった幼なじみと小学生の頃に遠く離れてしまい、24年を経て再会するというお話。実際に対面するまで24年だが、12年目にオンラインで再会する。今、インターネ... (4月12日)
オッペンハイマー
ロバート・オッペンハイマーの半生を描く伝記映画であり、その時代を描く歴史映画でもある。ただ、時系列がシャッフルされているため、史実の順序を知らないと少々わかりに... (4月5日)
マイホームヒーロー
娘がヤバい男と付き合ってしまい、命に危険が及びそうだ。そうなったらお父さん、あなたはどうしますか?本作では娘を守るために殺人を犯してしまったお父さん。しかしこと... (3月15日)
ボーはおそれている
ちょっと理解しがたい人に会ったことがあるかと聞かれたら、きっと皆さん度合いの差こそあれ、幾人か思い当たるのではないだろうか。でも他人のことなど、本来わからないほ... (2月22日)
身代わり忠臣蔵
これまでに幾度となく映像化されてきてもはや誰もが知っていると言っても過言ではない忠臣蔵。それを誰も見たことがないドタバタコメディにしたのが本作である。奇想天外な... (2月16日)
PRインターネット広告掲載はこちら »

ニュース / キーワード

ようこそ、ゲストさん

メールアドレス
パスワード

※パスワードを忘れた方はこちら

はじめての方はこちら

アカウント作成

ライナー最新号

2024年4月19日号
2024年4月19日号
パナソニックの
ショールームが移転
体感型の展示で魅了
紙面を見る

ピックアップ

注目グルメ
注目グルメ
定番から新作まで
ライナーが今注目する
お店の味はこれだ!
スーパーのお惣菜
スーパーのお惣菜
スーパーうまい!
惣菜パン編
シネマの時間
シネマの時間
映画ライター・ケン坊が語る新作映画と
そのみどころ
つくろう旬レシピ
つくろう旬レシピ
プロの料理人が教える
季節の食材を使った
絶品レシピをご紹介
味な人
味な人
北北海道で食に携わる
人々の横顔をご紹介
ものぴりか
ものぴりか
ライナーが集めてきた
地元の素敵な品々を紹介します
不動産情報
不動産情報
不動産・リフォーム等
住まいに関する情報を公開中
クーポン
クーポン
お得なクーポンを公開中
お知らせ
お知らせ
お店・スポットの
お知らせ
ラーメンマップ
ラーメンマップ
ラーメン食べたいなぁ
そんなときは専用マップで探してみよう
開店・移転・閉店
開店・移転・閉店
旭川市・近郊エリアの新店や創業などの話題。情報提供も歓迎!
星占い
星占い
4/16〜22

ページの最上段に戻る