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“真実”の重さ

イチケイのカラス

ⓒ浅見理都/講談社 ⓒ2023映画「イチケイのカラス」製作委員会

裁判官を主要登場人物に据えた風変りなサスペンス作品。漫画原作がドラマ化され、本作はその劇場版。私はそうした背景を一切知らないままいきなりこの劇場版を見たけれど十二分に楽しめた。

主要人物が裁判官なのでもちろん裁判のシーンが出てくるのだが、いわゆる法廷ものではない。裁判官が事件の検証を行うという「職権を発動」するところに本作の特徴がある。その分裁判官のリアルからは離れている印象を受けるが、これはそういうエンタメとして楽しむのが良いだろう。事件の真相を追うのだがあくまで裁判所でされた証言を検証するというスタイルで、いわゆる警察による捜査とは大きく異なる。

今回は瀬戸内の小さな町を舞台にいくつかスケールの異なる事件を扱っている。見ながら一緒に事件の謎を解くのではなく、眼前に展開されるお話を「見る」という姿勢で楽しむタイプの作品だと感じた。主要俳優陣はドラマから継承されており、特徴的すぎるキャラクタでも板についていて違和感は少ない。一方で扱われているテーマは重く、軽妙なキャラクタで薄められてはいるものの、後味としてなんらかのわだかまりを残す。「正義」や「真実」の意味を考えさせられる作品である。(映画ライター・ケン坊)

ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム

この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。

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冒頭、黒木華演じる裁判官は、一時的に別の領域を体験するというなんらかの仕組みによって弁護士をやっている、という話になっている。弁護士と裁判官はどちらも法律を扱う職種でありながらアプローチが異なる、ということを描いていく。瀬戸内の小さな町で弁護士をする彼女は、冒頭でちょっとコミカルな「田舎町の裁判」にありそうな裁判で弁護人を務めている。このシーンは非常にうまくできていて、この作品がコメディ要素を持っている点、リアリティを追求したシリアスな作品ではない点、この人物の生真面目さなどを過去作を見たことがない人にも分かりやすく伝えている。さらに驚くべきことに、人物紹介のためのエピソードのような体裁になっているこの事件が、作中のメインとなる大きな事件ともあとで繋がってくる。

本作では大きく三つの事件が扱われるのだが、その三つが背後で全部繋がっている。この繋がりの見せ方は巧みなのだが、逆に無理やりつなげてしまったために矛盾が生じ、説得力に疑問を残す展開ともなっている。特に汚染土に関する話は、密閉がほころびた状態で船に積んだだけで船員が意識障害を起こしたのに、その土埃を浴びたおばあさんは健康でなんともない、という事があるのだろうか。そもそも、汚染土が意識障害を起こすレベルで町民に出ている健康被害がごく一部ということも考えにくい。イージス艦側が事故の詳細を隠蔽した件がうやむやなままになる一方で、裏話的に艦対地ミサイルなどという話が飛び出して片付くのも少々投げやりな印象を受ける。

事件の流れにこうした無理が生じているのと、クライマックスで情報の後出しが行われることで事件そのものへの没入度は低いのだが、登場するキャラクタの魅力でしっかり観客を牽引していく。これは漫画的脚色のキャラクタを見事に具現化している俳優陣の力量によるところが大きいと感じた。

ただやはり、裁判官が主人公であり、本来裁判官である人が弁護士を務めたり、いろいろなタイプの弁護士が登場する作品にしては法廷シーンの迫力が乏しく、その点が物足りないと言えば物足りない。もっと法廷での論争、弁護合戦に対して裁判所が検証を行うという意味を掘り下げた展開があると作品の迫力自体が大幅に増すのではないかと思う。近年こうしたキャラクタ重視の作品が増えていて、それ自体悪い事ではないと思うのだけれど、キャラクタがあればそれでいい、という風潮が重みや迫力の不足した作品を増やしがちで、もう少し迫力という要素が注目されても良いのでは、という思いはある。

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