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戦いてぇンだ、世ン中ってやつとよォ

HOKUSAI

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ⓒ2020 HOKUSAI MOVIE

言わずと知れた浮世絵の巨人、北斎。本作はタイトルの通り、その北斎の半生を追った伝記映画的作品である。全体を四つの章に分け、前半で若き日の商業絵師を目指して奮闘する姿から名が知られていく様子を描き、三章からは大きく時代を進め、老齢になってなお闘志を失わない姿を描いている。

表現に関して自由が認められていなかった時代。そういう時代にあって表現に挑み続けた絵師や戯作者たちの姿を描き、体制には虐げられていたものの、民衆の心をつかんでいく様が描かれている。その時代の民衆と民衆に向けた表現を繰り広げた芸術家たちによるエネルギッシュな空気が垣間見られる。

終盤は「九十を前にして」という言葉からうかがい知れるように、最晩年近くまで描かれている。途中、卒中によって右手がしびれるといったハンデを背負いながらも、最期までいささかも衰えない創作意欲によって時代に挑み続けた姿は大変な迫力だ。

もちろん有名な作品も登場するが、あくまで北斎という人物が生き、息をするように描いたものたちが足跡のように残されるという見せ方だ。時の政治による弾圧とそれに黙っていない表現者たち。その生きざまから感じ得るものがたしかに、ある。(映画ライター・ケン坊)

ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム

この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。

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喜多川歌麿が活躍している時代。大型新人として登場する写楽。それを横目に悶々と苦悩する北斎。この奇妙な三角形は面白い。北斎はあらゆる方向に毒づきながらも、彼らから少なからぬ影響を受け、自分のスタイルを見出していく。若き芸術家が自らのスタイルを獲得するというこの序盤は実に興味深い。表現者たる上で大切なこととは何か。それが見事に描かれている。しかし映画はその後、絵師としてデビューした北斎のいわゆる「脂ののった」はずの時期を大胆にカットする。二章で妻子を得ている姿が描かれるものの、三章では既に老齢となっている。その間の長い、通常の表現者であれば最も重要であったかもしれない時期については大胆にカットされているのだ。そして老齢期にさしかかり、北斎は卒中で倒れ、右手に震えが残ってしまう。「もう二度と絵筆は持てないかもしれない」とまで言われるが、彼は諦めない。絵をやめるという選択肢は生涯、一度も脳裏に浮かばなかったように見える。

こうして身体に大きなハンデを背負った北斎は行脚に出る。その行脚から戻って描いたものがあの「富嶽三十六景」であったのだ。この名作中の名作を、作中では実にあっさりと描いている。行脚から戻ってこれを描きましたという説明もされず、特にセリフもないシーンの連続によって描かれている。この見せ方は実に見事であると感じた。

そして晩年、表現の弾圧によって北斎は盟友の戯作者を失う。そのやりきれない思いは熱い怒りとなり、この上ない表現を生む。このシーンの迫力はただごとではなく、田中泯の鬼気迫る芝居もあって深く強く印象に残る。そして描かれた「生首図」。

映画のラストでは、若き日の北斎と最晩年の北斎がともに一つの作品に挑んでいる。「怒涛図」。最期の作品として知られているこの作品を、若き日の北斎と並んで描いているというこのラストシーンは秀逸だ。「怒涛図」の構造とも相まって、そんなことがあったはずはないのに、本当にこうやって若き日の北斎と共作したのだとさえ思えるほどの説得力を持って描かれている。

北斎を描いた『HOKUSAI』という映画なのでどうしても北斎という存在に頼ったものになりがちではあるが、この作品は章立ての工夫と意欲的な表現によって単なる伝記映画に留まらない作品となっている。

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