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刮目せよ これは戦争だ

サイレント・トーキョー

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ⓒ2020 Silent Tokyo Film Partners

戦争というのは本来、国際法で定められた国家間の交渉手段であるけれども、その範囲を超え、武力をもって衝突しているもの全般を指してもいる。前者の意味での戦争であれば、個人が国家に対して宣戦を布告することはできない。戦争はもともと国家間で行われるものだからだ。一つの国の中で異なるイデオロギーが武力をもって衝突する場合、これは紛争、内戦などと呼ばれたりする。では本作のように、個人が国家権力を相手に戦争を起こす場合はどうなるのか。

選挙によって代議士を選び、代議士が国家元首を選出するという仕組みは多数決を採用している性質上、マイノリティの意見を無視する結果となる。本作は国家元首に意見を述べたい一人のマイノリティが、テロを切り札にして交渉を迫る。犯人の意図は交渉にあり、「これは戦争だ」と言い続ける。戦争は交渉の手段であり、武力の行使それ自体は目的ではない。しかし政府は「テロには屈しない」としてこれを退ける。かくして致命的な行き違いを抱えた一方的な交渉は単なるテロリズムに堕ち、不本意な展開を招く。

同種のテーマを描いた優れた先行作品があり、この作品は若干物足りない。ただ、渋谷のシーンは見事だ。(映画ライター・ケン坊)

ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム

この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。

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通底するテーマはうまく描かれている。日本の国政に対する怒り、平和ボケした国民に対する怒り。そういったものを犯人の動機に結び付けてうまく描いている。が、本作にはテロリストを追う警察という視点が同時に存在する。招待のわからないテロリストを追うというサスペンス的要素が同時に描かれているのだけれど、このサスペンスは極めてお粗末である。犯人の動機は素晴らしいのに、犯行計画には問題がありすぎ、最初の事件の見せ方がまずいせいで初めから真犯人が疑わしい。思ってもみない人物が犯人だった、という風にしたいのは見て取れるのだけれど、それがうまくできていないため、見せられる映像に無理がある。違和感がありすぎるため、最初から真犯人が疑わしく、観客は序盤で真相に辿り着いてしまう。あとは裏付けを待つだけ、という状況になるのだ。

映像的にはやはり渋谷のシーンが見事だ。サスペンス部分の詰めが甘いことも相まって、この映画は渋谷を吹き飛ばしたかっただけなのではないかとさえ思える。そうだとしても価値があると思えるほどに、渋谷の爆破シーンは素晴らしい。平和ボケの日本人を集め、警察が非常線を張って避難勧告をしても、爆弾がさく裂するまで誰も信じない。そういうノーテンキな日本人を一掃する。そこにカタルシスを得たいという欲求によって作られた映画であるように見える。バカっぽい人ほど酷い目に合うこの渋谷のシーンは秀逸だ。

この手の、平和ボケした日本人を象徴する東京を舞台に戦争を演出する、というテーマには先行作品がいくつもある。アニメ映画である『機動警察パトレイバー2 the movie』や、イージス艦のシージャックを描く『亡国のイージス』など。いずれ劣らぬ迫力の脚本で、見事に同種のテーマを描いていた。そこへ行くと本作は若干弱いと言わざるを得ない。

本作のラストはいろいろと考えさせられる。軍備拡大、戦争放棄の撤回といった方向へ進もうとする日本。それでもハンドルを握る男は、「もう少し期待してもいい」と言ってテロ行為を中断させる。彼が期待してもいいと思ったのは、自分の血を引く息子がその先の未来を生きるからという一点のみにあり、行政の動向にはまったく改善は見られない。子を持つことさえできなかった女の方は、いったいどう思っていたのだろう。彼女が何らかの納得をし、爆弾の解除コードを口にした、という展開が描かれる。本当にそれで良かったのか。彼女の思いは、国に届いたとは思えない。結局彼女はテロリストですらなく、犯人に人質にされたまま行方不明、という発表がされる。彼女と彼女の夫が凄絶な生き方を強いられたことも、闇へと葬られた。

どうもしっくりこない。これで良かったのだろうか。こんな幕切れでよかったのだろうか。テロに屈しない国家が、まったく自分たちの手で何をすることもなく事件のほうがひとりでに終息した。国は自衛隊を展開することさえなく、万事はよくわからない理由によって終結した。結局、「日本を戦争のできる国にする」と言っている首相が、何もせずに被害を食い止めたような形になった。ただただ、無念だ。

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