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ジョン・ウィックと言えば復讐の鬼的ドンパチアクションシリーズ。シリーズを通じて数えきれないほどの人が死んだ映画である。本作はそのスピンオフで、一作目のエピソードに重ねてその裏で並行して動いていた物語として描かれている。本作の主人公は、幼い頃ジョン・ウィックと同じ組織に拾われ、育てられた若い女性。もちろん殺し屋。彼女はある組織に父親を殺されたため、その復讐に燃える。あとはジョン・ウィックととまったく同じ。相手を滅ぼすまで終わらないデスゲームの幕開けである。
ジョン・ウィックは一作目から既にだいぶ過剰な物語で、この手の復讐劇はアメリカ映画が好んで描く物語であるが、これが大ヒットするアメリカという国はだいぶ病んでいるのではないかと感じた。その後、シリーズを重ねていくにつれなにもかも飽和し、四作目で一応の終幕となった。本作はメインストーリーが終結した後に出てきたスピンオフなのだが、主人公が女性になっただけで内容はそのままジョン・ウィックである。ド派手なドンパチアクションなのである程度痛快ではあるが、この方向はもはやこれ以上発展する未来が見えず、シリーズとしては閉塞感を免れ得ない。(映画ライター・ケン坊)
ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム
この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。
ジョン・ウィックシリーズのスピンオフで女性が主人公、と聞いて、正直なところ当初からあまりワクワクはしなかった。ジョン・ウィックの一作目を見たときは衝撃を受け、面白いと感じたし、エキサイティングでもあった。しかし二作目の時点で既に食傷気味で、一応ストーリーを繋いで四作目で完結するまで追いかけたが、一作目の衝撃を越えることはなかった。しかしシリーズ全体としてこのシリーズはかなりのヒットとなり、惜しまれつつ終幕となったのだ。四作目で主人公ジョン・ウィックが死んでしまったため、彼の物語を続けることはできない。しかしドル箱シリーズを終えてしまうのは惜しい。そこでスピンオフの出番と相成るのである。
はっきり言って本作はジョン・ウィックシリーズの延命措置である。まだジョンが健在だった時代を別の主人公で描き、そこにジョンも登場させる。本作にもジョン・ウィックことキアヌ・リーヴスが登場し、ジョン・ウィックらしいアクションを見せる。本作の主人公のイヴも完全に女版ジョン・ウィックでしかなく、復讐に燃えて武装した悪者をかたっぱしから葬っていく、という図式に一切変化が無い。残念ながら、どんなストーリーを持ってこようと、どんなキャラクターを新造しようと、「ただのジョン・ウィック」の域を出られないだろう。復習で皆殺し、という図式にはそれ以上の発展がなく、惨殺のバリエーションを増やすぐらいしかない。本作も知恵の限りを尽くした惨殺オンパレードで、新規性といえばそのバリエーションぐらいである。
ジョン・ウィックは一作目の時からそうなのだが、敵側が卑怯の限りを尽くし、さらに一人の主人公に対して大勢で攻撃してくる。このようにお膳立てをし、襲い来る敵をかたっぱしから惨殺しても許される状況を作っている。冷静に考えれば復讐とはいえ、百人以上殺しまくる主人公が許されてよいはずはない。しかも不必要なほどの惨殺、虐殺なのだ。それを執拗に見せていくスタイルになっていて、このシリーズがヒットするというのは世の中がだいぶ病んでいることの証でもある。
本作はジョン・ウィックでも見覚えのある展開で終幕となる。つまりどういうことかと言えば、続編へ発展できる要素を残して終わった、ということだ。本作がヒットすれば、おそらく次回作が出てくるだろう。しかしそこになにが期待できるのかと言うと、ほとんど何もない。幼い頃に父親を殺された少女が復讐に燃えた殺人鬼になり、自分と同じような子どもを大量生産していく物語。それがシリーズ化されて続くのは地獄でしかない。これが共感を呼ぶとしたら、やはり世界はなにかが間違っているだろう。