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両親を相次いで亡くし、兄一人で育てた妹が結婚する。そこに、妹が別の人の記憶を持って生まれてきたという設定が付与されて、ちょっと特殊な形で「家族」を描いた作品である。要約してしまえば極めてシンプルなストーリーであり、少し普通ではない設定も盛り込まれているとはいってもSFみたいなものではなく、あくまで家族にフォーカスしているので特段驚きがあるわけではない。それなのに、登場する人々が皆魅力的で、それを演じる俳優陣も素晴らしいためか、何度も涙が溢れるほどに心を揺さぶられる。
軸にあるのは家族の愛のようなものだが、細かく描かれる周辺の人たちとの交流もとても丁寧に表現されていて、「一つの結婚式に同席する人々」の間にある絆のようなものが浮かび上がってくる。それぞれの人物間にある少しずつ形の違う絆のようなものが、細やかに紡がれながら結婚式のシーンへと収束していく。むしろこうした細部にこそこの映画の魅力がある。
一方で時折挟まれるコメディ要素や死生観などは賛否が分かれそうな描かれ方をしていて、こうした要素が気になるとそれだけで醒めてしまうという人もいるかもしれない。まずは一見あれ。(映画ライター・ケン坊)
ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム
この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。
ある兄妹の妹が生まれたその同じ日、一人の女性が殺害されてしまう。この、亡くなった人の記憶が生まれてきた妹に入ってしまった、という生まれ変わりのようなアイデアから描き出される物語である。この兄妹の両親も既になく、兄は高校を中退して働き、妹を育ててきた。その妹が結婚するというのがストーリーの軸である。妹の結婚相手は少々風変わりな人物だがとても「いい人」であり、好感を持たれるように描かれている。ただ、彼はカラスの研究者で、カラスと会話ができる、という設定は少々行き過ぎであり、冗談程度に描くのなら良いかもしれないが、物語のけっこう重要な部分で「カラスに聞いて解決する」という展開まで登場するとさすがにリアリティを損ねる要因になっているような気がする。
また、何かと死後の世界が兄の夢の中に現れ、両親とのやりとりがあったりするのだが、この部分がバラエティ番組のコントとして描かれており、少々ふざけすぎではないかと感じる。最終的にこうした悪ノリみたいなシーンが気にならないぐらいに心を揺さぶられる話に仕上がっているとは思うのだが、笑いのセンスについてはいささか古臭さが否めない。
一番気になったのはラストで、妹の結婚を機に、妹の中に存在していた別人の記憶が無くなるのだが、あまりにも唐突に、しかも、前世の記憶だけでなく、その記憶に紐づいて数日前にしていた行動までもがきれいさっぱりに記憶から消えてしまう。前世の記憶が無くなるということはあるかもしれないが、式の開始時に自分をエスコートした人物を式の終了時にまったく覚えていない、という描き方は少々雑に映る。次第に前世の記憶は薄れていくけれど、そのつながりで知り合ったもう一つの家族のことは覚えていても良いのではなかろうか。
全編にわたっていわゆる「いい話」が満載で、涙が溢れるようなシーンもいくつもあるのだが、丁寧に描かれている部分と雑な部分の落差が大きく、少々引っ掛かりを残す後味の作品であった。