
- ©「パリに咲くエトワール」製作委員会
第一次大戦開戦直前のパリを舞台に、日本から渡って画家を志す少女と、薙刀道場の跡取りでありながらバレリーナを志す少女を描く物語。夢に向かって進む少女たちの青春ものとしてすっきりした作りになっているが、当時のヨーロッパ情勢や、舞台芸術および美術の状況などが、細かく細部に散りばめられている。
主人公は画家を志しているのだが、物語の主眼は彼女の友人でバレリーナを目指している少女の方。この視点の位置により、スポ根にならず、一歩引いた目線でバレエの世界を描くことに成功している。一方で美術については背景の画風と、具体的な人名を詰め込んだたった一つのセリフによって示唆されるのみで、あとはエンドロールに主人公によって描かれた絵が流れるのみとなっている。第一次大戦後大きく変化する美術史の萌芽がその気配を漂わせているのだが、少々抑制が効きすぎている印象もある。
本作の主人公、フジコと千鶴はいずれも実在すれば歴史に残る天才であり、ストーリーとしてはほとんどファンタジーだ。しかしアニメーションによるバレエ表現や美術全般が圧倒的に素晴らしく、何度も見たくなる映画である。芸術に興味がある人には特にお勧めしたい。(映画ライター・ケン坊)
ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム
この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。
当然ながら本作はフィクションなのだが、主人公たちがあまりにもスーパーなことになっていて、いくら何でも歴史としてあり得ないだろうという印象を受ける。もちろん本作の意味や価値はそのようなリアリティの部分にはなく、ストーリーの非現実性はこの映画の価値をいささかも損なわないのだが、とはいえリアリティを持って情景を描き、戦争の気配を随所に散りばめたことでリアルとファンタジーの間で揺さぶられ、どうしても一歩引いたところから見てしまう結果にはなった。
本作は主に1912~14年ごろのパリを舞台に描かれている。第一次大戦が目前に迫っている時期で、パリ・オペラ座でも徴兵や疎開によって人員が不足し、公演を継続するために、本来出られないような人も抜擢した、という設定だ。これによって千鶴がオペラ座の舞台を踏むチャンスを得たという話になっている。たしかに男性が徴兵されたことで上演できる演目が限定されるなどの問題を抱えながらも、オペラ座バレエ団は戦時中も公演を続けたという事実はある。ただこの時期、伝統を重んじる方向にシフトし、保守的な傾向を強めていたはずで、であれば現在よりも人種差別も強かった当時、日本人が出演できる可能性はおそらく万に一つもなかったであろう。
主人公のフジコは絵画を志してパリに渡るのだが、この時代設定は実に岡本太郎よりも20年早い。彼女は作中のセリフの中で、当時の美術界を賑わせた画家の名を列挙する。エンドロールでは彼女が描いたという設定の作品が次々に紹介される。しかしそれらがいつ描かれたのかの説明はないため、ラストシーンからしばらく時間をおいているのかもしれない。その作品群からは彼女が作中で挙げた作家たちの影響が感じられるのだが、もし第一次大戦当時にこのような作品を描いた作家がいたとしたら、おそらく美術史に名を遺したであろう。
このように、過去を舞台にしたことで各部にツッコミどころを作ってしまったという事実はあるものの、本作は音楽、美術ともに素晴らしく、特にバレエの表現はかつてないレベルと言って差し支えない。派手さはないが、日本のアニメ表現を一歩進めた作品として長く愛される可能性を秘めているだろう。






















