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美学を持って犯罪に手を染める主人公を描いたクライムサスペンス。冒頭からテンポの良い映像がビートを刻むように展開される。どのように関係してくるかわからない人物やシーンを並べて行き、状況を説明するような言葉は一切ない。次第に組み上げられていく物語の全体像。惚れ惚れするような演出だ。これぞ映画だ、と声を上げたくなる。
マイティ・ソーでお馴染みのクリス・ヘムズワースが、高額の盗みをやるけれど誰も傷つけず、痕跡も残さないというほとんど芸術的な強盗を演じる。やっていることは犯罪なのだけれど、この人物がまったく悪い人に見えない。対して一連の事件が同一犯だということに気づき、ただ一人真相に迫る刑事をこちらはハルクとしてソーと共演していたマーク・ラファロが演じている。この刑事は切れ者なのだが、腐敗しかけている警察組織に順応せず、出世街道からは外れて自らの正義を貫いている。いずれも独自の美学を持つ犯罪者と刑事。それぞれの道が次第に近づいて行く様を、映像のカットワークで緊張感たっぷりに描いている。
映像のセンスも、登場人物のふるまいも、すべてが「粋」である。唸るほど見事な出来栄えをぜひ堪能してほしい。(映画ライター・ケン坊)
ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム
この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。
とにかく映像の演出が素晴らしい。複雑な人物関係、入り組んだストーリー。細かく散りばめられる伏線。多くの要素を配置しながら、説明的なセリフが一切登場しない。映像だけですべてがわかるように、緻密に練られているのである。映画なんだから当然だろうという話はあるのだが、これができていない映画も非常に多い。複雑な話を映像だけで理解させることができず、登場人物が説明的なセリフをしゃべり出したりすると興醒めなわけだが、この映画にはそういう部分がまったくない。特に冒頭、まだどの人物がどのように絡んでくるかわからない状況で、説明の一切ないカットがテンポよく配置される。この時点ではそれぞれ全く関係のないシーンであったことが後でわかるのだが、「どうつながるのだろう」という興味を引っ張りながら視聴者を惹き込む手腕は見事である。
この作品はとにかく何も説明しない。単にカットとして物語の断片を見せていくだけなのだが、見る者の内側でそれらが次々につながり、ラストシーンで一枚の絵に組みあがる。大きなどんでん返しがあったりするわけではないのに、見終えた時の満足感がとても大きい。特にマーク・ラファロの芝居は見事で、わずかな表情ひとつで感情を雄弁に語って見せる。ラストシーンはまったくセリフがなく、彼の動きを淡々と追うような映像になっているのだが、彼の心の動きが手に取るようにわかる。
登場人物たちは皆「粋」だ。多くを語らない。複雑な状況に陥るのだが、何も語らずとも互いに通じ合っている。それが観客である僕らにもよくわかる。粋だ。粋な人物を粋な演出で描いているのである。派手さはないが、だからこそ、これは良い映画だ。





















