
- ©2025映画「TOKYOタクシー」製作委員会
「みち」と読む字にはいろいろある。それぞれニュアンスが少しずつ、異なる。この映画はそんなさまざまな「みち」を思わせる、心地よいロードムービーである。
個人タクシーを営む主人公は、将来に夢を抱きながら進学を控えている娘を持つ父親である。家庭は円満で仕事も気に入っているが、家計は決して楽ではない。彼がある日、同僚の代理で引き受けた長距離の客は八十五歳のおばあさんであった。物語は二人が出会い、タクシーで東京の下町から神奈川県の葉山まで移動する半日を描いているのだが、車内で語られるおばあさんの波乱に満ちた半生はまさに人生という「途」である。
半世紀にわたって東京を描き続けてきた山田洋次監督が、お馴染みの葛飾柴又の帝釈天前からスタートし、半日かけてゆっくりと夕景の横浜へとエスコートしてくれる。どのシーンも細かく演出され、そこかしこに「粋」が満ちている。脚本も見事であらゆるシーンがあるべき場所に収まって繋がり、ラストまでゆるみなくストーリーを紡いでいく。日本映画の最前線を走り続けてきた巨匠の、齢94歳を迎えてもまったく衰えない感覚が隅々まで冴えわたった名作と言って差し支えないだろう。(映画ライター・ケン坊)
ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム
この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。
中年のタクシー運転手がある日客として老女を乗せる。その一期一会を描いた作品なのだが、展開は本当に想像を超えていてまったく先が読めない。思い出を語りながら都内で寄り道をし、時間をかけて神奈川の葉山を目指す。途中横浜に立ち寄って食事をし、元町で娘へのお土産を買ったりもする。道中で語られる老女の半生は波乱に満ちたもので、予想をはるかに超えてくる。
タクシーの旅は老女を葉山の老人ホームに送り届けて終着となるのだが、料金を受け取れなかったために再会を約束して別れる。しかし翌週訪れた時、老女はもう亡くなっていて約束が果たされることはなかった。この後、老女はたった半日一緒に過ごしただけのタクシーの運転手に莫大な遺産を遺す遺言を書いていたことが判明するのだが、このある種超展開とも言うべきとんでもない結末が、ちゃんと説得力を持つように各所に伏線が散りばめてある。タクシーに乗りこむときに横にいた人物が葬儀の際に登場し、遺言を執行できる司法書士であったこと、タクシーの中で語られた半生で、この老女には遺産を遺すべき身寄りがないこと、さらに、どのようにしてその莫大な財を得たのかという部分に至るまで、説得力のある展開が組み込まれている。抜かりない脚本がご都合主義的にならず、そこに素晴らしい俳優陣の芝居が加わることで見事に練り上げられている。
日本映画界の巨匠中の巨匠である山田洋次。その60年を超えるキャリアの最新作として、何ら衰えることのない鋭敏な感性が存分に発揮された作品と言えるだろう。






















