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ある意味アクションシリーズの必然でもあるのがなんらかの要素のインフレ。バトルものは強さがインフレし、ドンパチものは飛び交う弾薬の数がインフレする。かくして本シリーズはインポッシブル、すなわち「無理ゲー度」がインフレした。
シリーズの8作目となる今作は大きく見ると前作から一続きの大きなミッションである。前後編みたいな状態の後編なのだが、これだけで3時間もある。上映時間も含めていろんなものが飽和している。今回はもう全人類を救うみたいなレベルの話になっているのに、我らがイーサンことトム・クルーズはほとんど一人で地下へ深海へ上空へと八面六臂の大活躍である。次から次に降り注ぐミッションはいずれもインポッシブルどころの騒ぎではなく無理。しかしどんな無理ゲーだろうとイーサンと彼のチームはなんとかする。今回はイーサン本人はもちろんのこと、仲間たちの能力も、ともすると雑な描き方がされ、すごさが一線を越えてしまっている。そのせいでシリーズ前半の作品にあったようなハラハラ感に乏しい。今作も派手なアクション映画として面白くはあるのだが、こうならずにシリーズを続けることはできないものかと思わずにいられない。(映画ライター・ケン坊)
ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム
この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。
シリーズの過去作品で描かれた要素とのつながりも深く、扱われる事件も、主人公であるイーサン・ハントがこれまでしてきたことの行きついた先で、シンプルに言うと彼がいろんな落とし前をつける羽目になる話である。さらにサブタイトルにはファイナル・レコニングとあり、最終作っぽい空気が醸し出されている。にもかかわらず、製作サイドはこの作品が最終作というわけではないと発表しており、イーサンを演じているトム・クルーズも、ハリソン・フォードも70歳を過ぎてインディ・ジョーンズをやっていたから自分もイーサンをやる気はあるという主旨の発言をしていて、このシリーズがまだ続く可能性を示唆している。
しかし、本作を見終えた今の私の率直な意見は、「やめといたほうがいいのでは」というものだ。確かにこのシリーズは魅力的で、終わってしまうのが惜しいという思いは私にもある。しかしそれを踏まえてなお、本作でこれ以上ない規模まで扱う事件は拡大し、ミッションの難易度は飽和し、もはややることがない。この先を考えるとすれば、X-Menみたいに全部無かったことにしてアナザー世界線を描くか、あるいはミッシングピースとして過去作の間の描かれていなかったエピソードを描くか、そういう方向しか無かろう。本作よりも規模を拡大するともはやアベンジャーズもびっくりな状態にせざるを得ず、時間を超えて過去を変えるとかそういうミッションをやるしかあるまい。アナザー世界線は興ざめだし、過去のミッションを描く場合俳優は必然的に若くする必要があり、それを今から老齢に差し掛かるトム・クルーズで撮影する意味もないだろう。本作では長年連れ添ってきたルーサーの死も描かれ、さらには一作目にも登場したロルフ・サクソン演じるダンローも登場するなど、過去作から続く流れた一旦一段落する。作品完成後の発言では続く可能性に言及しているけれど、本作を見る限り、これがシリーズのラストになったとしても十分成立するように描かれている。本作でこのシリーズは終わり、というのがもっとも美しいのではないかと思う。