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生きるとは いのちとは

人魚の眠る家

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©2018「人魚の眠る家」 製作委員会

どうしようもないほど手詰まりになってにっちもさっちもいかなくなる。どうしてこんなことになってしまったのだろう、いつどこで間違えたのだろう、どうすればよかったのだろう、原因を探るべく振り返る。そのときその時点では正しい選択に思えた、これ以外ない最適解に見えた、そういう最善の選択を積み上げてきて、その結果八方塞がりになる。悲しいほどよくあることだ。あとになって振り返れば最初から全部間違っていたような気がする。すべて最良の選択なのにみんな間違っている。『人魚の眠る家』はそういう物語だ。

映画を見終えて、なぜ「人魚」なのだろうと考える。思えば人魚姫のストーリーも、どこで間違ってしまったのかと思わせる悲惨な話であった。最初の間違いはたいてい善意から起こるのだ。小さな善意を積み重ねているうちに周囲が見えなくなり、気が付くと手遅れになっている。

どこで間違ったのか、どうすればよかったのか。この作品はひたすらそれを問いかけてくる。そしてその答えは出ない。正解のない問いの牢獄に捕われたような気分になる。物語は一つの着地点を見出すけれど、それを見終えてなお、答えを出せずに悶々とするのだ。(映画ライター・ケン坊)

ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム

この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。

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タイトルにある「人魚」が見る前から気になっていた。見終えたら一層気になる。なぜ人魚なのか。劇場から出て帰宅してもなお、それを考えている。

この作品は脳死を描いていて、脳死は人の死か、というずいぶん古くからあるテーマを扱っている。核になるのは少女の事故だ。少女が水の事故にあい、脳死状態に陥ってしまう。脳死に至るほどの長時間水中に沈んでいて、水死せずに脳だけが死ぬということがどういう風にあり得るのかよくわからないが、ひとまずこの作品ではそういうことが起きる。水死だって悲劇なのだが、ここで起きたことはそれよりも数倍残酷だ。

しかし脳死だけならそういうテーマはあまり新しいものではない。この作品がすごいのは、ここに脳神経医療の先端技術が登場するところである。脳からの信号で動くマニピュレータ(ロボットアーム)や、脳神経を電気変換して筋肉を動かす脳神経接続といった技術が登場する。この技術を応用して、脳死状態にある体を外から動かすのだ。

作中には少女とは逆に、神経に損傷を受け、脳は動くけれど身体が動かないという人も登場する。その人は脳からの信号でロボットアームを動かしたりしている。明らかに、脳が生きていて身体に問題がある人はロボットアームであっても生きていて、脳死状態にある身体は電気信号で身体を動かして健康な状態にあっても死んでいる、という描き方がされている。こうなると当然、では脳だけが生きていればそれは生きていると言えるのか、という問いが姿を現す。

さらに、特殊な状況に陥ってしまった脳死の少女は、簡単に「生きている」とは言えない状況にあるがゆえに、母親が必死で守ろうとする。しかし少女には弟がいて、この弟だって同じ母親の子なのだ。彼は元気に生きているがゆえに、母親から全く顧みられない。彼はまさにその母親によって生き地獄のようなところへ追い込まれていく。

生きているとはいったいどういうことなのか。いのちとはいったいなんなのか。なにを大切にすべきなのか。

人魚は声と引き換えに人間になった。愛する王子とともにいたかったからだ。しかし王子は別のお姫様のところへ行っていしまう。人魚は仲間たちにそそのかされて王子への復讐を試みる。しかし結局殺すことはできず、自ら命を絶ってしまう。人魚はいつどこで選択を誤ったのか。本作のタイトルは『人魚の眠る家』であるから、人魚は脳死状態の少女を指しているように思われる。しかし本作で人魚の悲劇をたどるのはむしろ母の方ではなかろうか。娘への愛ゆえにいろいろなものを犠牲にして禁断の力を行使する。そして最終的には短刀ならぬ包丁を手に抜き差しならないところまで行ってしまう。

ここが間違いだった、という明確な原因も、あのときこうすればよかった、という正解もない。信じて選択するしかなく、その結果はすべて責任をもって受け入れるしかない。

映画は一応ハッピーエンドとしてそれなりに着地するけれど、後味としては全く何も解決していない。閉塞感と絶望感が押し寄せてボーゼンとする。久しぶりにエンドロールが終わってもしばらく茫然として立てないような作品であった。

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永山/アミューズメント

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