身近にある施設や商品、催し物など様々な仕事の舞台裏に、ライナー編集部が密着しました
気になるあの場所へ潜入!

スガイランドリー株式会社
旭川市近文町21丁目4061-2
Tel 0166-52-9211
1940年創業、旭川市内に5店舗を構えるまちのクリーニング屋さん。「ものを大切にしよう」を企業理念として掲げ、着なくなった服も「また着たい」と思わせてくれる丁寧な仕事ぶりが支持されている。また、衣類だけでなくキャンピングテントのクリーニングや、洗濯代行、インディゴ染めサービスなど、時流に合わせて様々なサービスを展開している。
クリーニングで動かす 人の心とまちの循環
赤い蝶ネクタイを着けて微笑むアヒルのお店といえば、旭川市民ならピンとくるだろう。先代がアメリカのクリーニング店を訪問した際にキャラクターの概念を持ち帰り、水鳥のアヒルを企業のキャラクターにしたそうだ。だが、その微笑みの裏には、数々の失敗と反省の積み重ねがあった。春から初夏にかけてピークを迎えるダウンのクリーニングを通して、汗と涙の歴史のウラ側へ、いざ密着。
一つひとつを丁寧に 工程の7割を手作業で

一般衣類に靴やバッグ、帽子やスニーカーなど扱う品目は多岐に渡る。なかでも、今の時期はダウンジャケットやコートのクリーニングが増えるという。アウターだけで年間7000着を超え、そのうち約3000着がこの時期に集中する。一口にダウンといっても、ファストファッションからハイブランドまで、その種類は幅広い。同社では、高級ダウン専用の特殊ケアで、高品質な技術を提供している。

まずは、店舗と工場の2カ所で入念に検品し、洗濯前の前処理工程に進む。ここでは、首回りや袖口の汚れを、独自配合の洗剤とブラシを使って手作業で落としていく。必要に応じて染み抜きも行い、汚れのほとんどをここできれいにするのだ。いよいよ洗濯機かと思いきや、前処理はまだ終わらない。ファスナーやボタンなど、破損の恐れがあるものをカバーで保護し、洗濯中の事故を防ぐ。さらに、一着ずつ特製のネットにくるみ、ようやく前処理が完了する。これを経て、ついに洗濯機が登場するのだが、機械が担うのは水洗いやすすぎ程度。機械の性能に頼るのではなく、多くの人の手によって品質が保たれていた。

仕上げまではまだ遠く 後処理までぬかりなく
機械での洗濯を終えると、自然乾燥の工程へ。約一日ゆっくりと乾かしてから、乾燥機で本乾燥する。各ブランドの特性や素材の違いにより、温度設定も細かく分かれているのが特徴だ。通常であれば、乾いた時点で終了だろう。だが、仕上げはここから。人の身体を模した乾燥機で、熱を加えながら形を整えていく。シワやつぶれなどがリセットされ、仕上がりはまるで新品同様。さらに、防汚効果のある撥水加工を施し、カバーをかけてようやく完了となる。ここまで実に2~3日間という手間のかかる作業だ。
クリーニングに出す理由として、譲渡や売却などで手放すための依頼も多いという。だが、仕上がりに感動し、また着たいと思われることも少なくない。「ものを大切にしよう」という企業理念と、お客さんのニーズが合致する瞬間だ。汚れをキレイにすることだけが仕事だったのは昔の話。一つひとつの作業に宿る想いと、心を動かす仕上がりの綺麗さこそが、同社が求められている理由なのだ。
真摯に向き合い続ける 失敗の数こそが財産

今日に至る技術の習得は、日々の努力によるものだけではない。「うちの技術は、失敗の数です」と社長の菅井謙敬さんが話してくれた。物々しいムードを醸す「事故・クレーム報告書」というファイルの中には、今までに起きた事故の詳細がこと細かに記されていた。なかには某高級ブランド品の賠償に数万円を支払ったという案件も。色落ちや破れ、ボタンの破損やラベルの剥がれなど、一つひとつの事象とその原因をつぶさに分析し対策を練る。その積み重ねを経て、工程を少しずつブラッシュアップしてきたことが今に繋がっているのだ。
品物によって細かく使い分ける洗濯レシピのどれもが、今までの経験の賜物だった。失敗と正面から向き合い、それを糧にまた立ち上がる。優雅に見えるアヒルが水面下で必死に水をかいているように、今日も汗を流して前に進み続けている。
さらに深部へ ルポ・あれこれ
クリーニングで企業を支える

個人から預かる一般衣類だけでなく、病院の白衣や食品工場の作業着、美容室のタオルなどの扱いも多数。常に清潔さを維持しなければならないユニフォームには、クリーニング屋さんの力が必要不可欠なのだ。
国家資格のひとつクリーニング師

工場の責任者を務める北條大吾さんは、社内で数人いるクリーニング師の1人。道外への研修にも積極的に出向き、9年目となる今も技術の吸収に余念がない。「奥が深いのが魅力」と話す。
驚異のフォロワー6万人超え
社長自らが出演し、洗濯にまつわる豆知識をインスタグラムで発信している。目からウロコのウラ技や衣類のお手入れ方法など、まさにプロ直伝のライフハック。なかには1,500万回以上再生された動画も。
編集後記
洗濯は機械がするものというイメージが覆った取材だった。特にダウンに関しては、洗濯機に入れる前の処理と乾燥を含めた後処理こそが、仕上がりを左右する。人の手による作業は、AI時代が到来しても残り続けるのだろう。今までの失敗をあけすけに話す姿も印象的だった。それは決して開き直りではなく、失敗を二度と繰り返さないために向き合ったからこそできること。着るものが変われば気分も変わる。人やまちの明るい循環は、こうしたところから作られていると強く感じた。