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今にも雨が降りそうな曇天。時刻は午後3時。昼飯を食いそびれた…そんな時に、いつでもウマい洋食で出迎えてくれるのがこのお店。神居の住宅街に建つログハウス風の建物が目印だ。
昭和から変わらないであろう味のある家具や並べられた雑貨、今は禁煙になってしまったが、ヤニが黄色く染みついた壁が、年輪のように歴史を物語っている。なにを食べようか考えながら階段を上がり、2階の窓際の席へ。どことなく屋根裏のような趣のある2階席は、人目に付かずなにかに没頭するには最高の場所だ。憩いの場に、原稿があれば仕事場に、お気に入りの本があれば書斎にと、どんな時間を過ごすかは自由。まさに隠れ家と呼ぶのにふさわしい。決めた。パスタやオムライスもいいが、このシチュエーションにはカレーがぴったりハマるだろう。注文を済ませ、ビル・エヴァンスの繊細なピアノの旋律に耳を傾けながら到着を待つ。
カレーは創業当時からの人気メニューで、先代から引き継いだレシピのまま今でも提供されている。じっくりと煮込んだ玉ねぎの甘みが溶けだす深い味わいは、言葉にするのも野暮ってもんだ。楕円形の白いカレー皿に真っ赤な福神漬け、肉々しくジューシーなハンバーグが、濃いめのルーによく似合う。夢中でかき込み、心地よい辛さと余韻に浸りながら水を一気に飲み干した。
一呼吸置いてコーヒーを注文。一杯ずつサイフォンで淹れる様は、ぼーっとカウンターで眺めているのもいい。だが、3席しかないカウンター席はママとの会話を楽しむための特等席。馴染みの客が絶えず訪れるのも、気さくでチャーミングな人柄を知ればうなずける。
外に出てもまだ雨は降っていなかった。旨いカレーにも出会えた。「特別なこだわりはないけど、他とは違うでしょ?」とママの言葉がよぎる。きっと、重ねた歳月もスパイスとなってルーに溶け出しているんだろう。30男の旅路はまだ始まったばかり。最近増えてきた白髪もスパイスのように魅力に変える、そんな大人になれるだろうか。(文/武山 勝哉)