関ヶ原
©2017 「関ヶ原」製作委員会

勝機は我にあり

 司馬遼太郎の小説「関ケ原」の映画化である。

 前半は関ケ原の戦いに至るまでの経緯を丁寧に描き、後半は戦を描いている。歴史上他に類を見ないほど大規模な戦であり、日本史最大の内戦と言っても良いかもしれない「関ヶ原の戦い」。これまでも幾度となく創作化されてきた大事件である。本作は司馬遼太郎の小説に忠実に、石田三成を主人公として彼の側に寄った視点で描かれている。

 2時間40分という上映時間はかなりの長さだが、それでも展開はかなり目まぐるしい。開戦から決着まででも一本の映画になり得るような大事件であるが、本作はそこへ至る過程を秀吉の存命中から描いていく。開戦のその瞬間までを切り取っても一本の作品足り得る重みがある。陰謀、謀略、戦略、戦術など、それぞれの思惑ががんじがらめに絡まり合い、運命の決戦へと引き寄せられていく。そこに、原作固有の要素である三成とその配下のくノ一初芽との恋模様も描かれる。長尺な上に駆け足の展開で端的に言って少々忙しい作品になってしまっているが、原作のボリューム感を思うとそれも致し方ない。

 要所要所キャストが魅力的で特に前半は見応えがあるので特に前半をじっくりご堪能いただきたい。

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ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム

この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。

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 司馬遼太郎と言えば歴史小説の第一人者であるが、その手腕は史実をもとにエンターテイメントを作るという点に発揮されているように思われる。本作はあくまで司馬遼太郎の「関ヶ原」を映画化したものであって、「関ケ原の戦いを題材にした映画」ではないのである。

 キャラクタについては、武将などは実在の人物であるし、事件のあらましも概ね史実とされているものに基づいているのは当然だが、そこに司馬流エッセンスとして忍びの伊賀ものたちが絡んでくる。本作ではとくに、主人公三成(主人公と言ってしまって差し支えなかろう)が召し抱えて使うくノ一として初芽が登場する。この初芽と三成との間に通うわずかな想いのやりとりが作品に色を添えている。

 しかしこの二人のあれこれを細やかに描くにはほかに描くべきものが多すぎるのである。本作は石田三成を軸に描くため、三成が秀吉の家臣となった経緯が回想的に描かれ、本編は秀吉の晩年あたりから始まる。作品の主要エピソードは関ケ原だが、そこへ至る道のりは実に秀吉存命中から始まるのだ。

 秀吉の死から家康の台頭、三成との対立というのは日本史として見ても最も面白い部分の一つだろう。「関ヶ原」はそういう意味で間違いない題材と言える。1590年代の終盤から1600年の決戦までというのは、個々のエピソードそれぞれが一本ずつ映画になり得るほど濃密な数年だということを改めて感じさせられる。

 本作はその決戦に至る過程をじっくりと描き、決戦当日の朝までの部分だけでも相当な満腹感がある。展開が少々早すぎるため慌ただしさはあるが、それを補って余りある魅力があり、個人的には決戦の直前でエンドマークになっても良かったのではないかと思うほどに密度が高い。

 そして開戦。開戦前までをかなりじっくりと描いたから合戦の部分はあっさり終わるのかと思いきや、これも十二分にクライマックス足り得る内容になっている。わずか数時間で歴史的な決着がつくわけだが、その勝敗を分けたのはさまざまな人物たちの思惑であった。「人の心は読めぬ」と島左近も言う。まさに誰がどう出るかわからず、双方あれこれ根回しをしたうえで最終的には天に任された。関ケ原の面白さはこの陰謀と知略に満ちた舞台裏が数万の戦力をぶつけ合う内戦を左右した、という点にあるようにも思う。

 前半と後半、それぞれが一本の映画になりそうなほどの重さを持っているため、2時間40分の長尺を泳ぎ切るのはなかなか体力を要する。しかし見応えがあることは間違いないので上映前にしっかりトイレを済ませて挑みましょう。

2017年9月1日