ハクソー・リッジ
©Cosmos Filmed Entertainment Pty Ltd 2016

銃を捨て戦地に赴く

 第二次世界大戦末期、沖縄。それは地上に再現された地獄であったろう。その沖縄戦を描いた本作は日本人にとっては複雑に映る。

 ある出来事をきっかけに銃を持つことができない状態になった主人公は、それでも軍隊に志願する。自らは殺し合いに参加せず、負傷したものを助ける衛生兵として人命を救うために「戦う」。実話である本作は、多くを殺したことではなく多くを救ったことで英雄となった主人公を描いている。

 特筆すべきは臨場感溢れる戦闘シーンである。こういう書き方をすると爽快なアクション映画のように聞こえるが、本作の戦闘シーンは凄絶であり、悲惨だ。本作は当然米軍側の視点から描かれているのだが、この戦闘シーンは米兵が殺される悲劇ではなく、両軍ともに殺し殺されそこら中に躯の山が築かれていくという情景を執拗に描いている。目を覆いたくなるような凄惨なシーンがひたすら続き、どうしてこんなことになってしまったのかと思わずにいられない。

 多くを救った英雄の物語だが英雄譚ではない。彼を讃えていることは間違いないが、それ以上に「戦争」が描かれている。沖縄本土復帰45周年の今年、この作品を沖縄を学ぶきっかけにしたい。

イオンシネマ旭川駅前で上映中

ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム

この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。

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 『アメイジング・スパイダーマン』のアンドリュー・ガーフィールドが主演しているが、もちろんピーター・パーカーと本作のデズモンド・ドスは全く違うタイプの人物で、彼の新たな魅力を感じられた。

 キャストという方面からこの作品を見てみると、とても印象的なのが主人公の父、トーマス・ドスを演じているヒューゴ・ウィービングだ。ヒューゴと言えば『マトリックス』シリーズでのエージェント・スミスが有名すぎて、ともすると「なんだっけ、あのスミスの人」という具合に名前すらスミスと化すほどだ。しかしヒューゴ・ウィービングは今更わざわざ言うまでもなく名優であり、複雑な役でも見事な芝居を見せる。本作では前の戦争で精神的におかしくなり、アル中になって家庭で暴力を振るう父親という役どころを演じている。単なる暴力パパではなく、複雑な事情を抱えてそうなってしまっているというこの人物を、葛藤や苦悩をそこかしこに滲ませる細やかな表現で演じている。

 この父親と主人公の関係というものが、本作のもう一つの見せ場でもあるように思う。退役して自暴自棄のようになりながらも、息子のピンチには一肌脱ぐ。彼を狂わせたのもまた戦争だ。

 本作は本国でも沖縄戦を知るきっかけになっているようで、この作品の影響から前田高地を訪れる外国人観光客が増えているそうだ。連合軍側にも甚大な被害をもたらした沖縄戦は、どちらが勝った負けたという単純な話ではなく極めて悲惨だ。戦争がもたらす絶望が凝縮されている。

 奇しくも今年は沖縄の本土返還から45周年。いまだ沖縄の戦後は終わったとは言えない状況にある。この作品は沖縄戦を知るきっかけになるだけでなく、日本人としては今まだ続いている沖縄の問題を考えるきっかけにもなる。考えるきっかけを与えるということこそ、戦争映画がもたらすもっとも大きな効果と言えるかもしれない。

2017年6月30日