ちょっと今から仕事やめてくる
©2017「ちょっと今から仕事やめてくる」製作委員会

世界を変えるステキな出会い

 タイトルからして仕事を辞める話だろう。予告編を見るとどうやら死んだはずの男が死のうとした男を助けた話のようだ。そうか、きっと幽霊が救ってくれて仕事を辞めることができ、死なずに済んだっていう話だろう。と、多くの人はそう予想するだろう。もちろん私もそう予想した。その予想は気持ちよく裏切られることになった。

 ひどいブラック企業に勤めていて、もう死んだ方がいいとさえ思うような状況にある主人公。原作は「すべての“働く人”が共感して」大変なヒットになった小説だそうだが、この話に共感する人がそんなに多いのはかなり危機的な状況ではないか。もっと楽しく仕事をしている人もたくさんいてほしいと祈りたくさえなる。

 「仕事変えたほうがええんちゃう?」と謎の風来坊みたいな男が言う。しかし辞めてしまったら更なる絶望が待っているような気がして踏み出せない。本作はそんな人に、もっと違う目で世界を見ることを教えてくれる。

 出会いは人生を変える。でも実は自分の中にほんの小さな変化をもたらしたに過ぎない。自分が少し変わると世界の見え方は大きく変わる。この作品との出会いがその小さくて大きな変化をくれるかもしれない。

ディノスシネマズ旭川イオンシネマ旭川駅前で上映中

ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム

この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。

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 自殺しそうになった自分を救ってくれた男は3年前に死んでいた。そういう予告編を見て、幽霊になって助けてくれたという話だろうと思っていたし、実際にそうだったとしても個人的に全く文句はない。幽霊だっていいじゃないかと思うわけだが、本作はそこに仕掛けを用意し、幽霊じゃなくてもこれが成立するように工夫を凝らしてある。

 ラストまで見てから振り返ると、ちゃんと伏線が張ってあった。意外なところへ着地し、そこから振り返って「なるほど」と思えるとてもよくできた脚本だった。

 描いているテーマは重いものだ。もちろんブラック企業が悪い、死ぬぐらいなら辞めればいい、というのはよく言われていることで、最近は改善すべきだという動きが国からも出始めている。もちろん改善した方が良いことは間違いないので社会の動向は良い方に動きつつあるとは言えるだろう。しかしもっと根源的な問題として、本作にも出てくるが「結婚するには正社員でないと」とか、「辞めると次の仕事など得られない」といった強迫観念がある。こうした観念はもちろん根拠のないところに生まれはしない。就職というのは本来は「職」に「就」くことだが一般には企業に「採用される」ことだと思われている印象を受ける。選択肢はほかにもたくさんあるが、多くの人の目にはそういったものは映らない。目に映らない選択肢は存在しないのと変わらない。この状況を変えるには、目に映っていないものが映るようにするしかない。月並みな言葉だが「視野を広げる」ということだ。本作ではそのために、幽霊かもしれない奇妙な男が現れる。

 視野を広げるというのはとどのつまりものの見方を変えるということで、それは言葉で言うほど簡単なことではない。ましてこの作品が描いているような、自分がいるのと全く違う世界のことを選択肢に入れるなどというのは、何か強烈なきっかけがない限りほとんど不可能だろう。それこそ幽霊と出会うぐらいの。

 そして、本作はそうしたきっかけとして「映画」っていうのも良いんじゃない?という提案をしているようにも見える。本作自身があるかなり離れた視点をくれるし、もちろん本作以外の映画との出会いもきっかけになり得る。とても良い作品に出会った、というのが率直な感想だ。

2017年6月6日