無限の住人
©沙村広明/講談社
©2017映画「無限の住人」製作委員会

それぞれの正義

 20年近く連載されていたマンガを映画化したもの。少女の仇討ちに手を貸す不死身の剣士の物語。時代劇を装ってはいるものの時代劇ではなく、いわゆるヒーローものに近い味わいの作品だ。

 主人公とその目指す敵は風貌的に割と普通の人間だが、途中で相手になる敵の剣客は極めてマンガ的なキャラクタばかりだ。もちろんマンガ原作だからそれが当然なのだが、こうしたキャラクタは実写映像化するととたんに陳腐化してしまうのを半ば避けられない。

 こちらにはこちらの言い分があり敵には敵の正義がある。そうした独善的な正義の定義をつきつけられ、仇討ちを目指す少女は開き直る。「正義も悪も関係ない。愛するものを殺した相手を殺す。」なりふり構わない暴力。それぞれがそれぞれの正義を押し通し、政治はそれを利用して邪魔なものをまとめて排除する。

 不死身の剣士に仇討ちを頼んだ少女も実は師範の娘で、一応剣士である。この少女が道場では決して弱い方ではなかったのに道中ほとんどお荷物でしかないのが惜しい。もう少し強くなって自ら戦ったりしてほしかった。

 主人公が不死身なので殺陣に命がけ感が無く、結局モノクロで描かれているプロローグが最もスリリングだ。

イオンシネマ旭川駅前ディノスシネマズ旭川シネプレックス旭川で上映中

ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム

この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。

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 主人公である万次(まんじ)を演じるのはキムタクこと木村拓哉。いつものキムタク調であるがよくハマっていて好印象である。しかし若手俳優は揃って活舌が悪く、これが時代劇テイストとしては致命的だ。ヒロインやその敵である天津など、物語の中核をなす人物の活舌が悪いことが作品への没入を大きく阻害していると感じた。

 唯一、托鉢僧のような僧兵を演じる市川海老蔵は、登場時顔が見えない状態で画面に現れるが、発声と発音の巧みさでタダモノではない存在感を放つ。実際この人物には仕掛けもあるため、別格っぽく映ることがそのまま演出としても活きている。

 不死身の主人公というのは他の作品にもあるが、やはり扱いが非常に難しい。死なないこと、死ねないことの葛藤を描くという方向へ行くしかないわけだが、それが剣士ということになるとどうしようもない。剣士というのは言わば剣技一つで命をつないでいくもので、命を懸けて剣を振るうわけだ。しかしここに不死身という要素が加わると重要な要素が欠けてしまうことになる。剣技で相手を圧倒するのではなく、剣技では負けているのに勝負には勝つ、といったことが生じる。斬られても刺されても死なないからだ。かなりスピード感のある殺陣なども見せてくれるわけだが、主人公が不死身の存在であるがゆえにどうも形骸化したものとして目に映る。

 少々没頭しにくい状態としては上映時間が長いと感じた。もう30分短いか、もしくは少女がもう少し達人になっていて戦うシーンなどがあればもっと違った印象を受けたのではないかと思う。

2017年5月9日