海賊とよばれた男
©2016「海賊とよばれた男」製作委員会 ©百田尚樹/講談社

熱き日本人の物語

 監督、原作、脚本、主演が『永遠の0』と共通、という作品でけっこう似た印象を受ける。エピソードを時系列ではなく、エピソード毎に時間をさかのぼりながら見せる構造になっているため全体の様子は終盤までわからない。例えば時が進んだ世界に登場しない人物がいると、途中で何かあったんだろうな、と思うわけだが、何があったのか描かれるのはその人が描かれる順番が来たとき、といった具合だ。この辺の行ったり来たりする感じも『永遠の0』っぽい。この作品が初見だったら気にならなかったのかもしれないが、『永遠の0』と同じような顔ぶれで同じような演出がされているため、ちょっと「またか」という印象を受けた。

 本作は出光の創業者をモデルに書かれたドキュメンタリータッチのフィクションであり、軸になるエピソードは実話をもとにしているものが多いようだ。こういう熱い心を持った人たちが戦後の日本を復興したのだろうけれど、今のご時世だといろいろとマズイ部分のほうが取り沙汰されそうだ。かなり美化して描かれているがやっていることはかなりきわどい。

 20代~90代まで同じ俳優が演じている主人公の特殊メイクにも注目してほしい。

イオンシネマ旭川駅前シネプレックス旭川ディノスシネマズ旭川で上映中

ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム

この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。

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 人を惹きつける魅力を持ち、正しいと信じる道を全力で進む。そういう熱い男を題材にした物語である。劇中でははっきりとは説明されないが、本作は出光興産の創業者、出光佐三をモチーフにして脚色した小説を映画化したものである。説明はされないが、戦後晴れて石油を扱う業者として認可された際に登場する店のマークが見覚えのある出光のマークにそっくりなので注目尾してほしい。

 各所実話と違う部分はあるが、最も大きな日章丸事件(本作中では日承丸という字を当てている)はほぼ実話であり、やはり大きな足跡を残した人物であることは間違いない。やっていることは無茶だが、その後の日本の発展という意味でも彼の功績は大きい。

 小さな個人商店が巨大企業に成長していく物語という意味ではプロジェクトX的でもあるし、途中に戦争が挟まったり、利権争いのしがらみがあったり、経済ドラマとしてもエピソードに事欠かない。そういう意味で、2時間40分という長尺だがあまり長いという印象は受けなかった。ただ、綾瀬はるか演じる嫁さんがらみのエピソードは必要なかったのではないかと感じた。というのもこの作品、登場人物が綾瀬はるか以外ほぼ男性で、基本的に熱い男たちの物語を描いている。嫁さんは主人公を支えた人という形ではなく、結婚して割とすぐに別れていなくなってしまってラストで後日談のようなものが語られる。つまり本筋にあまり関係が無い。そもそも、最初の妻が出て行ったあと、後妻さんとの間に子をなしたというエピソードが語られるのだが、後妻さんも子供も登場しない。それなら最初の妻のエピソードも無いほうがすっきりとして良かった気がする。

 この作品には良くも悪くもきわめて日本人的な人ばかりが登場する。熱い志を持ち、熱意で生きる。他人を動かすのは熱意と共感で、恩義には滅私で報いる。店主の命であれば命がけだろうとどこへでも行くし、なんでもやる。しかし店主の側も暴君ではなく、無茶は言うが感謝をし、尊重する。ドライな要素は全くない。暑苦しいほどに人情を大切にする。本作はもちろん、そういうものを良いもの、失ってはならないものとして描いており、私もそういう熱さに感動したりする。しかし時代がはるかに下った現在、こういう価値観というのはいささか古いのではないかということに、正直なところ少々不安も覚えるのであった。

2016年12月16日